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奈良県(医師・割増賃金)事件

奈良県(医師・割増賃金)事件

(奈良地裁判決 平成21年4月22日)

<概要>


  • 原告X1、X2はA病院産婦人科に勤務する医師であり、Y(奈良県)はA病院の設置運営者である。

  • (1)Yでは、条例において「任命権者は,人事委員会の許可を受けて、正規の勤務時間以外の時間において職員に設備等の保全,外部との連絡及び文書の収受を目的とする勤務その他の人事委員会規則で定める断続的な勤務をすることを命ずることができる」と規定され、人事委員会規則により「断続的な勤務」として「県立医科大学付属病院又は県立病院における入院患者の病状の急変等に対処するための医師又は歯科医師の当直勤務」が定められている。
    (2)Yは、Xらに対し、本来の勤務以外に交代で宿日直勤務を命じ、Xらはこれに従事している。宿直医師は、入院患者並びに救急外来患者に対する診療に当たるために,A病院に宿泊する。宿日直勤務において命じられている業務は、入院患者の急変に対応するほか、やむを得ぬ事情がない限り救急外来患者の診療にも従事することであり、宿直勤務の際はA病院に宿泊して業務を行い、日直勤務においてもA病院で業務を行い、宿日直勤務中は勤務位置をできる限り明確にして常時ポケットベルを携帯し、呼出しに速やかに応答することが義務付けられている。また、産婦人科という診療科目の特質上、宿日直勤務時間中に分娩に立ち会うことも少なくなく、宿日直勤務時間中に、帝王切開術実施を含む異常分娩や、分娩・新生児・異常妊娠治療その他の診療も行っていた。
    (3)Xらを含むA病院の産婦人科医師は、宿日直勤務以外に、自主的に「宅直」当番を定め,宿日直の医師だけでは対応が困難な場合に、宅直医師がA病院に来て宿日直医師に協力し診療を行っていた。

<判旨>

  • Ⅰ.労働基準法の解釈関係
    • 1.本件宿日直の労働基準法41条3項該当性
  • 時間外又は休日労働の割増賃金支払義務に関する労働基準法37条の規定は、監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が労働基準監督署長の許可を受けた者については,適用しないこととされているが(同法41条3号)、同法41条3号にいわゆる「断続的労働」に該当する宿日直勤務とは、正規の勤務時間外又は休日における勤務の一態様であり、本来業務を処理するためのものではなく、構内巡視、文書・電話の収受又は非常事態に備えて待機するもの等であって、常態としてほとんど労働する必要がない勤務をいうものと解される(平成14年3月19日厚生労働省労働基準局長通達基発第0319007号、甲13)。
  • 労働基準法第41条第3項
    • 3.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
  • 医師、看護師等の宿直勤務については、次に掲げる条件のすべてを満たす場合には、労基法41条3項の許可するものとされている。
    • ①常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみであること(原則として通常の労働の継続は認められないが,救急医療等を行うことがまれにあっても一般的にみて睡眠が十分とりうるものであること)
    • ②相当の睡眠設備が設置され、睡眠時間が確保されていること
    • ③宿直勤務は週1回、日直勤務は月1回を限度とすること
    • ④宿日直勤務手当は、その勤務につく労働者の賃金の一人一日平均額の3分の1を下らないこと
  • ところで、勤務時間条例9条1項は、職員に断続的な勤務を命じることができるとし、勤務時間規則7条1項3号 は、県立病院の入院患者の病状の急変等に対処するための医師又は歯科医師の当直勤務が断続的な勤務に当たると規定する。しかし、前記認定のとおり、Xらは、産婦人科という特質上、宿日直時間に分娩への対応という本来業務も行っているが、分娩の性質上、宿日直時間内にこれが行われることは当然に予想され、現に、その回数は少なくないこと、分娩の中には帝王切開術の実施を含む異常分娩も含まれ、分娩・新生児・異常分娩治療も行っているほか、救急医療を行うこともまれとはいえず、また、これらの業務はすべて1名の宿日直医師が行わなければならないこと、その結果、宿日直勤務時間中の約4分の1の時間は外来救急患者への処置全般及び入院患者にかかる手術室を利用しての緊急手術等の通常業務に従事していたと推認されること、これらの実態からすれば、Xらのした宿日直勤務が常態としてほとんど労働する必要がない勤務であったということはできない。
  • 以上のような実情に鑑みると、本件においては、Xらの宿日直勤務について、これを断続的な勤務とした勤務時間規則7条1項3号に該当するものとすることは、労働基準法41条3号の予定する労働時間等に関する規定の適用除外の範囲を超えるものというべきである。
  • 2.本件宿日直の労働時間性
  • 労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、仮眠時間であっても労働者が実作業に従事していないというだけでは使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができるとされている。
  • Xらの宿日直勤務の態様・内容によれば、XらはA病院から宿日直勤務を命じられ、宿日直勤務の開始から終了までの間、場所的拘束を受けるとともに、呼出しに速やかに応じて業務を遂行することを義務付けられている。したがって、Xらは、実際に患者に対応して診療を行っている時間だけでなく、診療の合間の待機時間においても労働から離れることが保障されているとはいえず、宿日直勤務の開始から終了までの間、医師としてその役務の提供が義務付けられているといえ、A病院の指揮命令下にあるといえる。
  • 3.本件宅直の労働時間性
  • 上記宅直勤務が、割増賃金の請求できる労働基準法上の労働時間といえるか否かは、宅直勤務時間が「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」に当たるか否かによる。
  • 本件の宅直勤務制度は、救急外来患者も多いA病院における産婦人科医師の需要の高さに比べて、5名しか産婦人科医師がいないという現実の医師不足を補うために、産婦人科医師の間で構築されたものである。しかしながら、Xらも認めるように宅直勤務はA病院の産婦人科医師の間の自主的な取り決めにすぎず、A病院の内規にも定めはなく、宅直当番も産婦人科医師が決め、A病院には届け出ておらず、宿日直医師が宅直医師に連絡をとり応援要請しているものであって、A病院がこれを命じていたことを示す証拠はない。また、宅直当番の医師は自宅にいることが多いが、これも事実上のものであり、待機場所が定められているわけではない。
  • このような本件の事実関係の下では、本件の宅直勤務時間において,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていた、つまり、A病院の指揮命令下にあったとは認められない。したがって、宅直勤務の時間は,割増賃金を請求できる労働時間とはいえない。

<判決>

  • 宿日直については、割増賃金を請求できる労働時間として認められたが、宅直勤務については、割増賃金を請求する労働時間性が否定されました。

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